「多極化という妄想」

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(Foreign Affairs:2026/2/17)

アメリカは口では「多極化だ」といって、世界の警察の地位を堂々と下り、それを奇貨として自国の利益の為の行動はかりしている。そして、アメリカ以外の国・地域は実力がないので、誰も止められない。これは実質は一極化のままで、悪いことにアメリカの我儘だけが強くなっているのが現状である。表面的な綺麗ごとは取り去って、欲望剥き出しの弱肉強食の世界に戻ったかのようだ。

The Multipolar Delusion
And the unilateral temptation.

曰く、

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・アメリカから中国、ロシアからインドに至るまで、世界が多極化の時代に入ったという合意があるとの話がある。比類なきアメリカの地球支配が終焉し、今や世界的な権力が複数の中枢(=極)に分散していると言う。トランプ大統領の就任当初、マルコ・ルビオ国務長官は、「ワシントンが唯一の超大国としての立場は歴史的に見て正常ではない。国際システムが多極化に向かうのは必然である。」と述べた。
しかしこれらは、各プレイヤーが「多極性」をどのように定義するかによって異なる意味を持つ。トランプ政権にとっては、多極性はアメリカの権力に対する制限を受け入れることを意味するわけではない。ところが多極化は米国が従来のグローバルなリーダーシップとそれに伴う責任を放棄することの錦の御旗となる。一方、多極化は、中国、ロシア、および多くの発展途上国にとっては、アメリカの支配を制限し、欧米主導の制度を破壊し、米国だけの主導ではないガバナンス、開発、安全保障のモデルを構築することを目的とした政治的動きである。

・多極化という考え方は、冷戦終結後、アメリカ合衆国が唯一の支配的勢力として台頭して以来、広く支持されてきた。そしてトランプ政権の復帰で、多極化は避けられないものと思われた。しかし、その1年後には「おや?話は違うぞ」ということがわかってきた。トランプ政権は、強硬な関税を課し、他国に介入し、世界中で和平交渉や取引を仲介することで、アメリカの力を再確認させた。
中国とロシアは特定の問題でワシントンに抵抗してきたが、米国が国際ルールを再構築しようとする試みに対して包括的な挑戦を迫ることはできなかった。
欧州同盟国は、米国に対抗する能力がさらに低下している。トランプの侮辱的な圧力に直面して、彼らは萎縮し、屈服した。現実には、世界はまだ一極化状態だ。

・「極」となる為には、核戦争や貿易といった1つか2つの分野で影響力を持つことだけでなく、軍事力のグローバル展開、技術的・産業的リーダーシップ、規範の形成、公共財の提供、そして構造的ショックを吸収する能力を備えていなければならない。この厳しい基準に合格するのは、相変わらずアメリカだけである。アメリカは相変わらず世界の主要な経済エンジンであり、防衛費はダントツに他国を上回る。世界中の比類なき同盟、軍事基地、および物流インフラのネットワークがある。アメリカ企業は、人工知能、半導体、バイオテクノロジーなど、さまざまな分野で業界を席巻している。アメリカの大学はグローバルなイノベーションネットワークの中心的役割を果たしており、アメリカの文化産業は世界中の物語や嗜好を形作っている。

・中国は「極」というにはまだほど遠い。経済成長率の鈍化、人口減少、国営企業の高いシェアーなどを考慮すれば、さらなる減速の可能性がある。通貨は世界的には普及していない。厳しい資本規制と財務の不透明性により、人民元建て国際取引はほとんど見られない。軍は東アジアにおける地位を強化してはいるが、世界中に力を供給するために必要な物流ネットワーク、基地へのアクセス、および連携に欠けている。そして、その長年にわたる開発プログラム、とりわけ一帯一路構想やアジアインフラ投資銀行は、米国が支援するグローバルガバナンス機関に取って代われず、単に補完しているに過ぎない。

ロシアはというと、国際システムを形作るために必要な属性をさらに欠いている。核兵器や従来型の軍事力を多く持っているものの、経済は天然資源依存、人工知能やロボット工学などの新興技術で大きく後れを取っており、中国と同様に人口減少に直面している。

欧州もまた潜在的な「極」であり、経済的影響力を有しているが、政治的分断が続いており、安全保障をアメリカに依存している。今後数年間は米国の軍事力に頼らざるを得ない。

ブラジル、インド、インドネシア、サウジアラビア、トルコは、経済的影響力と地域的な政治的影響力をますます強めていて、G20などで存在感を示しているが、「極」と呼ぶほどではない。

・現時点では、誰もアメリカを止めることはできない。米国の一極化に対する主な制約は、アメリカ自身にある。2026年の中間選挙で民主党に政治的に大きな転換が見られたり、外交政策の大きな泥沼が続いたりすれば、トランプの一方的な主張の一部が弱まる可能性はある。しかしアメリカは一方的な行動の容易さに慣れ、アメリカの外交政策はそれを追求し続けるだろう。
新しい世界秩序は、「アメリカが唯一の大国としての責任を回避し、国際体制を形作れる唯一の力であり続ける」というものである。 過去10年間、例えば中国は南シナ海の土地を積極的に奪取し、ロシアはウクライナ領土の広大な地域を征服・併合してきた行為を批判していたはずのアメリカも、現在は自らの利益を推進するために公然と武力を行使している。
トランプ政権の顧問であるスティーブン・ミラーは「我々は、力によって支配され、権力によって支配される世界の中で生きている。これらは時代の始まり以来、世界の鉄則である。」とCNNで自らの世界観を語った。トランプがグリーンランドの所有権を強く要求していることは、この新しいパラダイムの中の最も露骨なケースである。彼にとっては、80年にわたり米欧同盟の基盤となってきたNATOよりも、人気のない島の方がより重要ということだ。

・またトランプの強硬姿勢が、アメリカが中国やロシアに同様の自由度を与えるわけではない。アメリカの軍事力はヨーロッパおよびアジアにおいて依然として決定的なものであり、中国およびロシアの行動を引き続き制限し続けるだろう。アメリカ合衆国は、集団における責務というものを犠牲にしながら自分自身の力をせっせと高めている。11月の国連のガザに関する決議は、トランプが議長を務める「平和委員会」を設立させ、同地区における停戦および再建プロセスを監督することで、アメリカに前例のない権限を与えた。トランプは現在、ガザから世界中の紛争解決に理事会の権限を拡大しようとしている。これにより国連安全保障理事会の権限が損なわれ、アメリカが国際秩序を形成する可能性がある。

・その存在が圧倒的に広く主張されているにもかかわらず、多極化は実現にはほど遠い。多極化というのは、アメリカがもはや国際秩序に対して責任を負う必要はないというメッセージだ。そして、トランプの多極化のビジョンでは、どの国もその力を本来の形で発揮できるとは言うものの、アメリカと他のすべての国との市場や軍事力の格差を考えると、実際はアメリカだけだけがその力を制約なく行使できるものである。アメリカは多極化を口では言うものの、その実質は継続的な一極化の恩恵を享受している。

・1990年代初頭にソ連が崩壊し、アメリカ合衆国が唯一の超大国となったことをきっかけに、今日の世界は劇的に変化した(フランシス・フクヤマは歴史の終わりを高らかに宣言した)。しかし今のところアメリカの覇権への挑戦者が現れる可能性はほとんどない。今日のアメリカは、自身の行動の結果について何ら責任を感じることなく行動している。それが今のトランプ政権だ。そして当面の間、他のいかなる国や連合もそれを止めることはできない。

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